ミュージカル『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』感想

ミュージカル 「また、必ず会おう」と誰もが言った 感想
※ネタバレ多目&元々は長江くん目当てで行った人間の感想です。

東京に修学旅行に行く、という話題から何の気なしに「東京にもディズニーランドにも行ったことがある」と嘘をついてしまった熊本の高校生・和也が、その嘘がバレないようにする為に夏休み中、一人で本当に東京へ行くことに。
ディズニーランドに行き、写真も撮って証拠としてはバッチリ。でも楽しくはない。
ディズニーランドから羽田空港までのバスに乗り込み「夜には熊本、何の問題はない」と安心していた和也だが、バスが渋滞に巻き込まれてしまい、なんと飛行機に乗り遅れてしまう。
所持金は3,600円。頼れる人はいないし、母には「博多の大学の見学に行ってくる」と言っているため家に電話を掛けることも出来ない。
途方に暮れる和也……というところから始まる物語。


秋月和也(長江崚行さん)
主人公。プライドが高くて格好付けたがりな17歳って感じが伝わってくる。ひたすら可愛い。
嘘をついたときの歌(本心部分)と回想(台詞)が交互なのと、その曲調が速いのが和也の焦りを表現しているみたいで聞いてるこっちもハラハラしてしまう。あとすこぶる歌が上手くて流石長江くんって感じだった。
熊本弁は上手いのでは?博多弁とちょっと違うから分からないけれど……。
お兄ちゃんにも友達にもちょっと嘘つきなのバレてるし、それを感じているはずなのに嘘を重ねる姿がまだまだ未熟で意地っ張りな高校生って感じだった。お兄ちゃんのパソコンで旅行の予約するときお兄ちゃんに見られないようにパソコンを抱き抱えるのめちゃくちゃ可愛い。
根が純粋……というか、嘘をついていられる状況じゃなくなったことで素直になれたのかなぁという印象。
極限状態で、誰も頼れる人がいない状況下だからこそ出会う人々の言葉がすんなり和也に伝わったんじゃないかな。
これから先、今度は自分が誰かに何かを渡せる人間になれるかは和也次第だし、そのことで悩むのだろうけれど、きっと大丈夫だと信じている。だから見守らせてくれ。


出会った人々
①田中昌美(杜けあきさん)
羽田空港の土産屋さんで働く女性。
途方に暮れている和也に声を掛けてくれた方。おそらく彼女以外の誰かに声を掛けられていれば、和也の旅は始まらなかった。
とてもお綺麗で華やかなのに、田中昌美というどこにでもいるおばさんに確かに見えるのが流石女優さん。
和也に嘘をつくなと言いながら、自分も(相手を思うためとはいえ)嘘をついていたし、未だに本当のことをつたえられていないのがなんとも……。
ていうか今気付いたけど出会う大人の殆どが何らかの嘘をついていた……。
和也に教えたのはある種の処世術だけど、多分これは息子さんにも教えたかったことなんだろうな。
愛情深くて、厳しくて、優しい女性。
和也と昌美のハモりが本当に綺麗だし、そしてなにより楽しくて良かった。軽快なステップの昌美さんの真似っこをする和也の可愛さよ……。
物語が動くには昌美さんが必要不可欠で、そんな大事な役だからこそ杜さんを起用されたのだろうと納得する。歌も演技も本当に素敵でした。
演出として好きなのが、昌美さんと和也のお母さんの電話のシーン。
和也とお母さんが電話をしているときはお母さんの台詞しか私達には聞こえず、和也のお母さんと昌美さんが電話をしているときは昌美さんの台詞しか私達には聞こえない。
和也が知っている情報しか与えられないようになっている。
でも台詞がない側の動きとかでなんとなく言っていることが分かるのが面白いなぁと思った。


②木原さん(安城うららさん)
昌美さんの息子・雄太へ和也が昌美さんからのプレゼントを届けに行った際出会った、雄太が働く美容室の女性。すごく可愛い。
雄太の台詞から以前から雄太と昌美さんのことを気にかけてくれていたんだと思う。
彼女も家族に嘘をついていたことを後悔していて、だからこそ自分と同じ後悔を誰かがしないようにと美容室の皆に親孝行はしなさいと言っていた模様。優しい。
多分彼女の学生時代と和也は少し似ているんじゃないかな?その辺りの話もしてほしかった。
やりたいこともなく目前のことを優先して生きて、現実を突き付けられた瞬間に後悔をするところとか……多分似てる。あぁでもだからこそ和也も木原さんの話を聞いて「すぐにでも家に帰りたくなった」のかも。
いやでもそのあとした提案中々ロックだな……って思った。この物語の女性、皆さん発想が大胆では。好きだけども。
お母さんに電話をかけるとき、少しだけ緊張しているようにも見えるのは、まだ後悔をしているから?でもすごく声が優しくて、聞いてるこちらがなんだか暖かくなるみたいな……親と話すとき確かにそんな感じだよね、みたいな。
木原さんの電話のシーンがあるのはこのターンの語り部は彼女だったからなのかな?と思ってる。



③雄太さん(関根慶祐さん)
昌美さんの息子。中学生の頃昌美さんが旦那と離婚し、昌美さんが親権を取るも高校受験前に昌美さんの元から父親の元へと移る。昌美さんの嘘を真実と思って傷付いていたんだと思うとめちゃくちゃ苦しい。それでも昌美さんを恨みきれずずっと想っていたんだろうな。
あとどちらも「今さら連絡なんて」と言うところがめちゃくちゃ親子だなって思った。
昌美さんとの再会のシーン、私達には台詞は聞こえないのもその現場を和也は見ていなくて、ただ「会いに行った」という情報しかないからそういう演出なのかもしれない。



④太田さん(豊田豪さん)
吉祥寺から厚木まで自転車で目指す和也を途中で補導(?)したおまわりさん。コミカルな動きが多くて楽しい。
「熊本の高校生がなんで吉祥寺の美容師から借りた自転車で厚木のラーメン屋を目指すんだ!」がまったくその通りすぎた。あのシーン大好き。
でもちゃんと和也の話を聞いて、その途中飲み物や食べ物を和也にくれる優しいおまわりさん。
面白い経験をしている和也を気に入ってくれて良かった。でも出会ったばっかりの人に部屋の鍵は渡しちゃダメ。ちょっと心配になる。
過去についた自分の嘘にこの人もずっと後悔してた。
まぁ確かに酷い嘘だとは思うけど、太田さんと同じ状況に立たされて本当のことが言える人は限りなく少ないと思う。そこから卑屈に生きるのではなくて「強くなろう」「あの時の自分が許される職業は何だろう」と考えられる太田さんはやっぱり強い人だし、今は罪滅ぼしとかじゃなくて「誰かの喜ぶ顔を見て嬉しくなれるおまわりさん」として働いていらっしゃる太田さんはやっぱり優しくて愛情深い人。
ただ贖罪する相手は確かにおまわりさんとして出会う人々ではなく過去に傷付けた友人だと思うので、最後に婚約者を連れて同窓会へ行くと決めたとき心の中で拍手してた。
友人にもだけど、これから先一緒に生きていく婚約者にも言うことを決めた太田さんはやっぱり強いよ。




④柳下さん(石坂勇さん)
海老津で出会ったトラック運転手さん。車場荒らしと間違えて和也を拘束してたら太田さんに拘束された。その時慌ててる和也めちゃくちゃ可愛かった。
優しくて、格好良い大人の男性。登場人物で一番好きかもしれない。
皆が色んな経験から和也に進言していた中で、柳下さんは多分経験よりも前に自分の中で芯を作り、それを和也に教えてくれた印象。
「他人の眼鏡をかけるな」はとても響いたというか、自分を省みる切っ掛けになった。大人の方が刺さるんじゃないかな。
誰かに言われたことでもそれに従うという判断をしたのは自分だし、なにかをするとき他人に責任を擦り付ける逃げ道を作る狡さを改めて突き付けられてしまった感じ。反省します。
ただ娘には何故か伝えられないお父さんでもある。嘘をついていたことを後悔していないのは彼だけかも?嘘というかまぁそれが柳下さんの教育方針なんだろうけど。
いやでも「娘に好かれたいんじゃない、幸せになってほしいだけだ」は格好良すぎてダメ。
あと和也への「兄弟」呼びもいいなぁと思った。ずっと年下の和也への最大の敬称では?
細かな演技が上手な方。車から降りるときに腰を抑えて「いわしたかな」みたいなこと話していたのが伏線だったのかな?と思ったり。
あと表情一つで怖く見えたり、優しく見えたり、コミカルに見えたり……と演技の幅広さよ。




⑤和田さん(Adamさん)
大きな船にはしゃぐ和也に声を掛けてくれた男性。お医者さん。穏やかに見えるけど学生時代カナダをヒッチハイクで一人旅って中々なことをされてらっしゃったそうで……凄いな。
和田さんの勧めで甲板に出た和也のシーンがとても幻想的だった。歌唱力の高さと、夜空を表現した青と紫の光。スモークに連れ去られそうな俳優No.1は長江くんだよ……とよく分からないことを思うくらい素敵なシーン。
柳下さんが倒れて慌てる和也にすぐ対応してくれた。お医者さんの鑑に見えるけど、目指した切っ掛けが中々……でも聖職に見られがちだから和也も思わず苦言をしただけで、世の中「他人に羨ましく思われたいから」と進む道を決める人は少なくないと思う。
それを恥じることが出来た和田さんもまた、根が純粋で優しく、元々お医者さんに適任な人だったんだと思う。
和田さんは別に他人に直接的な嘘をついていたわけではないけど、そんな人だから騙していた意識があるんだろうな。特にお母さんに。
自分には何か使命があるのか?と考えさせられるし、答えなんてすぐは出ないけど、和田さん自身使命を悟ったのが(おそらく)遅めだというところに少しだけ焦燥感が和らぎはする。
和也も焦ったとき「和田さんだって悟るのは遅かったのだから」と安心してくれたらいいな。



⑥千里さん(松岡侑李さん)
柳下さんの娘。アメリカに住んでいたけれど結婚の挨拶のことで柳下さんに認めてほしくて帰国中。めちゃくちゃ格好良い女性。
日本のことが嫌いになってアメリカへ留学して、そして日本のことが大好きになった。
千里さんが嘘をついていたとしたら自分にかもしれない。
学生時代の掘り下げがないから分からないけど、自分を取り巻く環境のせいにして離れた結果、悪かったのは環境ではなかったことに気付いたのかな?
和田さんの話を聞いてすぐに柳下さんのところへ駆けていったり、最後には柳下さんのことを「めちゃくちゃだ」と笑える快活さが素敵だと思う。
柳下さん親子は分かり合えてないわけじゃなくて、思い合ってるからこその反発っていうのがいいなぁと思った。
でも柳下さん多少素直になっていいのでは……いや千里さんが翻訳機搭載したからまぁいいんだけど。
でも「『(娘が選んだ)相手は良いやつに決まってる』って言ってましたよ」と和也から聞いた瞬間、一瞬泣きそうな顔をしてからの笑う演技が素晴らしいなと思った。和也がいなければ「パパってば」と素直に照れたりしたんだろうなー。結局似た者親子。
見送る台詞も格好良い。あれは柳下さんの言葉でもあり、千里さんの言葉でもありそう。
和也が何かに踏みとどまったときとか、この言葉を思い出して奮起してくれ。



⑦三品さん(西村秀人さん)
旅の最後、船の上で出会った老紳士。
全体の語り部は多分この人。そして唯一嘘をつかれた側の人間な気がする。
「生きて帰ろう」と言い合ったのに、友人だけが戦死してしまうという、これまでの旅で友人が増えて「さよならって悲しいものですね」と泣いた和也に一番悲しい「さよなら」をさりげなく伝えたんじゃないかな。
命に限りがあるなんて17歳の和也にはピンとこないんじゃないかな?と思ったけど、しっかり伝わってて祈るように「また会えますか?」と三品さんに問い掛ける和也は三品さんの命の限りが自分よりずっと短いことをちゃんと理解していたよね。それに対し「会う必要があれば」と笑う姿が印象的。



和也のお兄ちゃん(桐矢彰吏さん)
旅の中で色んな人に出会い、影響された和也が影響を及ぼした人第一号がお兄ちゃん。
大学まで卒業しながらアルバイトで家にもお金を入れてなかったお兄ちゃんにが、旅中の和也から貰ったメールで思いを改めて「就活頑張る」と……。
「まだまだ子どもだと思っていた」和也にハッとさせられるお兄ちゃん。モラトリアムの終わりって感じが凄くさりげなくてビックリした。
これから先また躓くかもしれないけど、そのときは弟から力を貰うかもしれないし、弟が躓いたときはお兄ちゃんが「あの時のお前に貰ったメールで…」みたいな話をするかもしれない。
秋月兄弟本当に見守らせてくれ。
あとキャストさんが大千秋楽で最後のシーンの時既に泣いてて一気にときめかされた。泣くの早いよ……なに?君、可愛いね……。


和也のお母さん(多岐川装子さん)
最初は息子に甘いお母さん?って印象だったけど「良い薬」「和也は大バカ」って笑ってる姿に意外と肝っ玉母さんか?とも思った。結果としては息子達を信じてくれてる愛情深いお母さんだったわけだけど。
最初から最後まで和也とお兄ちゃんを見守る立場だからこそあまり書けることはないけど、これから先迷うこともある息子二人を変わらぬ愛情で支えていくんだろうなと思う。
しばらくは和也とお兄ちゃんの好物たくさん作ってそう。


その他
昌美さんからの「お世話になるところでは誰よりも早く動いて役に立つ」という教えで誰かに出会う度に和也がセットのボードをひっくり返したりブラインドを閉めていくんだけど、そのボードが黒から緑と青になるんだよね。
人と出会う度にセットが色付いていくの、だんだん和也の心が豊かになっていくのを表しているみたいで良いなぁと思ってずっと見てた。
ブラインド閉めることでライトが更に映えるし、なんかそういう演出なのかな。
そういうところも見ていて楽しかった。舞台が簡素な作りだから余計に想像する面白さがあって、小説らしさをあえて残したのかも?
ミュージカルとしての完成度が本当に高い。DVD出して。